異世界小説堂:八条院せつな

異世界ものの小説投稿ブログです(作者 八条院せつな)

小説:イケメン転生~ 第1話 とある道路で

「う・・・うぅ」

 

俺が出した声はうめき声だった。別にそういうプレイをしているわけでもない。

今 俺がいる場所・・・・・それは車道の真ん中だ。

別にアスファルトに寝るのが趣味というわけでもないよ?

 

実は今、俺は絶賛死にかけ中。いわゆる、瀕死というわけだ。勘の良い人なら解ると思うけど、交通事故でトラックに轢かれたんだ。自慢するこっちゃ無いけどね・・・・

 

ダクダクと自分の腹のあたりから血が流れ出ているのが分かる、自ら出した真っ赤な血溜まりの中に倒れていた。不思議と痛みはない。周囲にギャラリーがザワザワと騒いでいるが、誰も助けに入る者はいない・・・・

 

なんで誰も助けてくれないんだろう?誰か助けてくれよマジで・・・・・

 

そう疑問に思うだけ無駄だ。この都会において助けにきてくれる酔狂な他人などいるはずがない。それに俺はブサイク中年だ。助けられるにしても条件が悪すぎる・・・。やっぱり美少女とかじゃないと助けてもらえないだろう。俺はブサイクだ。それも自信を持っていえるほどの醜悪な顔をしている、ついでにハゲでデブだ。この容姿なので、モテたことなんてないし、合コンとか誘われたこともない。女子は俺と話す前に叫び声をあげて逃げてしまうレベルだ。

 

金曜の夜ということもあり人も多いが、さっきも言ったように皆は俺を見つめているだけだ。

 

パシャ・・・・カシャ・・・・・・

 

写メまで撮りはじめている始末・・・

 

くそ・・・なんて冷たい東京砂漠・・・・・これは本格的に死ぬのか?俺は・・・

 

(元はと言えば、あの二人を助けたからだ・・・・)

 

俺は冷たい野次馬のうち、とある若いカップルを恨めしそうに見つめた。野次馬は興味本位なので、基本楽しそうな顔をしているが、その若い二人だけ青い顔をしている。

 

そりゃそうだろう。だって、あいつらの代わりに死にかけてるんだからな!

 

「お、おい。もう行こうぜ」

 

そのカップルのうち若い男性のほうが、やや震えた声で女性へ語りかける。

 

「う、うん。でも、あの人・・・・私たちを助けようと・・・・どこかで見た顔のような・・・・・」

 

女性のほうは、か細い声で応える。こちらも同じ年齢くらい、顔面は蒼白である。

 

「ば、バカ!聞こえる!厄介なことに巻き込まれるから、もういこう!」


男性は女の手をとって人垣から離れていった。

 

(おいおい、行っちゃうのかよ。薄情な奴らだな)

 

去って行く姿をみて、俺は絶望に包まれた。

 

(こりゃ詰んだな・・・・)

 

俺は、今日の出来事を思い出す。

 

俺はビル清掃会社の社員で、本社のオフィスワークに憧れていたが、高卒で頭も良くない俺がそんな仕事を出来るはずもなく。与えられた仕事はビル清掃。つまり清掃員だ。一日の仕事は過酷で毎日ボロボロになりながらまっすぐ帰宅してベッドへ直行の毎日。しかし今日は珍しく居酒屋で人と飲んでいた。

 

たまたま本社から視察にきたお偉いさんに飲みに誘われて、嬉しくなって付き合ったのが運のつきだった・・・・・。そして、2時間ほど飲んだ後、いい気分のままフラフラと自宅まで歩いて帰っていたんだ。時間は23時過ぎだが、繁華街である都市部では、まだまだ明るい。むしろこれからである。

 

「うわ・・・・頭がクラクラする・・・。くそ!あの野郎め、さんざん俺をバカにしやがって・・・、うん?あれは?」

 

そのとき、道路でケンカしているカップルを見かけた。

 

「はぁ、痴話喧嘩?いいねぇ、若いって。こちとら35歳にもなって付き合った女の子すらいないってのに・・・・」

 

そう呟いた直後、言い合っていた男女がヒートアップしたのか、女のほうが男を突き飛ばした。

 

「おお?すげぇ・・・最近の女の子は強いなぁ」

 

細い身体には似合わない威力で、男性がヨロヨロと車道内に突き飛ばされた。

男性の向こうから黒い影が見える。

 

あれは? なんだろう?

 

「ランプつけてない車じゃね?あぶねーぞ?あれ?気がついていない?」

 

男性のほうは、突き飛ばした女性に文句を言っているだけで、後ろから迫っている車に気がついていない。

 

「おいおい!早く戻れよ。轢かれるぞ?」

 

酔った頭からも、危険な状態なのが見てとれた。

女性のほうは、さらに男性に手をあげようと車道に入っていった。このままでは、二人とも轢かれてしまいだろう。

 

「危ねーな・・・。まぁ、知ったこっちゃないか・・・・」

 

俺は半分面白いものを見るかのような気持ちで、状況を眺めていた。しかし、女性のほうの顔を見て青ざめる。

 

「あの女の子・・・どこかで見たような??あれ?!ユウカちゃん!?」

 

女の子の顔をみて驚いた、俺の唯一の友である良太、その良太の妹ユウカちゃんだったのだ。良太の妹は、年が15歳以上離れていて、良太の自慢の一つでもある。たしか女子大生だったはずだ。

 

「な、なんでこんなところに良太の妹が?」

 

その子が目の間で、車にはねられようとしている。

 

「くそ!!」 思うより早く体が動いていた。道路におれも飛び込んでいたのだ。

 

「キャ!?だ、だれ!?」

 

まず、ユウカちゃんの腕を掴んだ。ユウカちゃんは驚いている。

 

「いいから!危ないから!」

 

俺は。ぐいっ!と引いてみたが、ユウカちゃんも男の手を掴んでるせいか動かない。二人分は重い!!

 

くそ!間に合わない!このまま引くしかねー!

 

「おらぁ!!」

 

ぐいっと引っ張る俺

 

「うわ!」「キャア!」

 

男もユウカちゃんも路肩に投げ飛ばされた。おい!男!お前は要らないんだよ。まったく・・・・でもユウカちゃんは良かった、助けられた・・・・・・・・あれ?

その時、俺は気がついたんだ、俺は車道の真ん中に立っていることに。反作用の法則だな。

 

「冷静に分析してる場合じゃねー!逃げないと!!うゎぁぁ!?」

 

キィィ!!ドン!

 

「ぐあ!?」

 

俺はゴムボールかのように弾き飛ばされて宙を舞った。

そのままフリーフォール、自由って残酷ね。

固いアスファルトが目の前に迫るところまでは見えたが、突然 目の前がブラックアウトした。

 

目が覚めたときには、さきの通りである・・・・・・・ダクダクと流れる自分の血が、水たまりのように広がり。その赤い水が自分を飲み込むかのように包んでいた。

 

「この血の量は・・・死ぬのか・・・俺は・・・・・・」

 

俺は死を意識した。何も楽しいことがない人生だった。両親は小さいころに死んでしまって天涯孤独。お金も才能もない、特に恋愛ごとには縁のない人生・・・・

いつしか、俺の眼から血の色の涙がこぼれていた。

 

「せめて・・・・次の人生は・・・・モテたい・・・な・・・」

 

そこまで俺が呟くと、そして、俺は視界が真っ赤な色から、真っ黒に変わった。もう死ぬのだと、嫌が応でも理解していた。